エドガー・シャインのキャリア・アンカー ― 自分の価値観を知り、キャリアを選ぶ

キャリアアンカー

「この仕事を続けるべきか、それとも新しい道を探すべきか」――キャリアの選択に迷ったとき、頼りになるのは自分が本当に大切にしている価値観です。

組織心理学の第一人者、エドガー・シャインはこの「拠り所となる価値観」を キャリア・アンカー と名付けました。自分のキャリア・アンカーを理解することは、キャリアを安定させる「錨(いかり)」のような役割を果たします。


キャリア・サイクル ― 人は働きながら成長し続ける

シャインは「キャリアは成長のプロセスであり、成人後も発達は続く」と考えました。
また、仕事だけでなく家庭や自己成長などの領域も統合して捉える必要があるとしています。

キャリアの発達段階を9つに整理し、それぞれに課題を設定しました。

  1. 成長・空想・探求(0~21歳):職業を空想的に捉え、教育訓練の準備をする時期
  2. 仕事の世界へのエントリー(16~25歳):初めて社会に出て進路を模索
  3. 基本訓練(16~25歳):仕事に必要な基礎を学ぶ
  4. 初期キャリア(17~30歳):仕事に挑戦し、自己概念を形成
  5. 中期キャリア(25~45歳):組織内で責任を担い、アイデンティティを確立
  6. 中期キャリアの危機(35~45歳):これまでの選択を見直し、転機を迎える
  7. 後期キャリア(40歳~定年):指導者や管理者として役割を果たす
  8. 衰えと離脱:引退準備、家庭や地域での役割を模索
  9. 引退:経験と知恵を活かし、新しい役割を見出す

👉 ポイントは「年齢に厳密に当てはめるための理論」ではなく、誰もが直面し得る共通課題の枠組みとして理解することです。


キャリア・アンカーとは何か?

シャインは調査を通じて「人は組織の価値に染まるのではなく、自分なりの価値観を持ち続ける」ことに気づきました。
その価値観こそがキャリア選択の拠り所であり、彼はこれを キャリア・アンカー と呼びました。

キャリア・アンカーは「自分が得意とすること」「仕事を進める上で大切にしている価値観」に関する自己認識です。
以下の8つに分類されます。

8つのキャリア・アンカー

  1. 特定専門分野/機能別コンピテンス:特定分野の専門性を追求
  2. 全般管理コンピテンス:組織全体をマネジメントしたい
  3. 自律/独立:自由に働けることを重視
  4. 保障/安定:経済的・生活的な安定を最優先
  5. 起業家的創造性:新しい事業や仕組みを生み出す
  6. 純粋な挑戦:困難な課題や未踏の挑戦に価値を感じる
  7. 奉仕/社会貢献:人や社会の役に立つことを大切にする
  8. 生活様式:仕事と生活のバランスを重視する

👉 同じ職業でも人によって異なるアンカーを持っています。
たとえば大学教授でも「安定収入」を大切にする人もいれば、「研究で社会に貢献したい」という人もいます。


キャリア・アンカーの活用方法

キャリア・アンカーは「あなたはこの職業が合っている」と決めつける診断ではありません。
むしろ、自分の価値観を整理し、どんな働き方なら自分らしくいられるかを見つけるための枠組みです。

  • 職務・役割分析との組み合わせ
    自分のアンカーを理解した上で、現実にどのような役割や職務と合致するかを見極める必要があります。
    いくら「自由」を望んでも、定型業務しかない職場ではミスマッチが起きてしまいます。
  • キャリア・サバイバル
    もしアンカーと仕事の条件が合わない場合は、職務の内容を調整したり、将来的に別の役割を目指す必要があります。

👉 「好きを仕事に」という言葉の裏には、社会のニーズやスキルの適合が不可欠であることを忘れてはいけません。


まとめ ― 自分の価値観を知ることがキャリアの軸になる

キャリア・アンカーを知ることは、キャリアを選ぶ上でのブレない軸を持つことにつながります。

  • 自分が大切にしている価値観を明確にする
  • 仕事や役割の条件と照らし合わせて現実的に考える
  • ミスマッチがあれば戦略的に調整する

キャリアの正解は一つではありません。
だからこそ「自分にとって譲れない価値観=キャリア・アンカー」を意識しながら働き方を選ぶことで、長期的に満足度の高いキャリアを築くことができるでしょう。

👉 次の一歩として、「自分が今の仕事で何を一番大切にしているか」を紙に書き出してみてください。
それが、あなたのキャリア・アンカーを見つける第一歩になります。

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